正式な英語における’Mrs’
英国の称号についていろいろ調べるときに意外と重要なのが、正式な英語における’Mrs’の取り扱いである。中学生レベルの単語ではあるが、意外に盲点な事がある。[姓氏名乗り]カテゴリーで考えてみよう。
結論から言うと、我々は中学校で、’Mrs’が妻の
例として、’Miss Toyah Wilcox’が’Mr Robert Fripp’と結婚するとしよう。すると新妻は正式な英語では’Mrs Toyah Fripp’ではなく’Mrs Robert Fripp’もしくは夫の姓について’Mrs Fripp’と呼ばれる事になる。
alt.talk.royaltyにポストされた情報によると、上の例において’Mrs Toyah Fripp’というと、正式な英語では、彼女が未亡人であるかもしれないことを示唆しているという。
このことに関してOxford English Dictionaryの’Mrs’の項を見てみると、該当する用法に当たる’2a’に1908年のNew English Dictionary (OEDの旧版)の解説を引用する形で以下のことが書かれている。
In British use the insertion of a woman’s Christian name after Mrs. (as 'Mrs. Mary Smith’) is rare exc. in legal documents, cheques, or the like, the normal practice when distinction is needed being to insert the husband’s name (as 'Mrs. John Smith’). In the U.S. both these modes of designation are in general use.
英国の用法では、女性の洗礼名を’Mrs. Mary Smith’の様にMrs.の後にもってくることは希なことで、法律文書や小切手といった類でしか使われず、一般的な用法では’Mrs. John Smith’の様に夫の名前をもってくる。アメリカでは両方の用例が一般的に使われる。
このNEDの記述に見られるように、法律文書や小切手といった本人を明確に特定する必要があるところでしか、’Mrs + 妻の名 + 夫の姓’といった形は用いられない。
しかしながら、上の記述で注目するところは、’Mrs + 夫の姓名’という形は、1908年当時の英国で一般的であるということ。1908年というと96年前である。英国英語といえどもこの96年間により米語の影響が強まり、かつよりくだけた表現が前面に出てきている。従ってより米国的な’Mrs + 妻の名 + 夫の姓’が一般的になってきている。たとえば、ケンブリッジ大学出版局が発行する英語学習者向けの英英辞典であるCambridge Advanced Learner’s DictionaryのOnline版を引いてみると:
a title used before the family name or full name of a married woman who has no other title:
- Mrs Wood/Mrs Jean Wood
この用例に’Mrs + 妻の名 + 夫の姓’形のMrs Jean Wood
が挙げられていて’Mrs + 夫の姓名’形が挙げられていないことから、後者が現代ではあまり一般的な用法ではない、ということが類推できる。オックスフォード大学出版局の同タイプの英英辞典であるOxford Advanced Learner’s Dictionaryの方でも、同様の定義になっている。
しかし、このウェブのトピックである称号に関連して考えると、正式な用法である’Mrs + 夫の姓名’形を覚えていることは重要である。というのは、貴族の爵位や称号というものは、略式形であれ正式形であれ、フォーマルなものであり、妻の称号などの形はこの正式な英語のルールを基礎として成り立っているからである。
貴族や王族の称号がこの「正式な英語における’Mrs’の用法」に基づいているということは、意外に英国人にとっても盲点である。だからこそ、多くの英国人が所謂故ダイアナ元妃を指して’Princess Diana’と言う間違いを犯している。英王室史に'Princess Dianaという人物は’存在しない。
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