五等の爵位と五種の貴族
今では基本的に時事ネタなどから称号制を研究してきたが、一度ここで基本に立ち返っていろいろ確認してみたいと思う。
英国の貴族制に関する説明でよく言われるのは
まず、’five ranks’というのは所謂五等爵である。その位を上位から列挙する()内は左からその女性形。[]内はその地位自体表す語。有り得る語が複数ある場合は列挙してある。日本語は古代周の制度や日本の華族で用いられた語を当てた一般的な訳:
- Duke: 公爵
- (Duchess) [Dukedom]
- Marquess: 侯爵
- (Marchioness) [Marquisdom, Marquissate, Marquessate, Marquisship)
- Earl: 伯爵
- (Countess) [Earldom]
- Viscount: 子爵
- (Viscountess) [Viscountcy, Viscountship, Viscountry)
- Baron: 男爵
- (Baroness) [Barony]
一応注意する点としては、(現代)英国では’Marquis’ではなく’Marquess’を用いる点。前者はフランス語の影響を色濃く残している語形(というかそのまま)。他には、アングロ・サクソン出自のEarlの女性形が大陸系のCountessだったりすること。
Marquess-Marquisについてはもっとややこしいのだが、ここでは細かい話は省略。近年、「侯爵」の中には’Marquis’の方を好む人もいる。これらの話はまた後日。
ここでは各自の語源や期限の説明は省略する。また、ここで記したのは呼称・尊称ではなく(爵)位そのものなので注意。
ところで、現在の所謂英国は現在は
こうした合同したそれぞれの王国ではそれぞれの法体系がもちろん別個に存在していた。で、貴族の特権もしくはその存在自体もそれぞれ法体系によっている。そして、それらはその爵位が授爵された時点の王国の法体系適用されることになる。そういったことから、すべての貴族はその授爵された王国によってまず分類される。
- The Peerage of England: イングランド貴族
- 1707年までのイングランド王国に於いて授爵された貴族
- The Peerage of Scotland: スコットランド貴族
- 1707年までのスコットランド王国に於いて授爵された貴族
- The Peerage of Great Britain: グレート・ブリテン貴族
- 1707年から1801年のグレートブリテン王国に於いて授爵された貴族
- The Peerage of Ireland: アイルランド貴族
- 基本的には1801年までのアイルランド王国に於いて授爵された貴族。しかし、その合同後も、1899年頃までアイルランド貴族名義で授爵された例が数件ある。
- The Peerage of the United Kingdom
- 1801年の連合王国の成立以降に授爵された貴族。当然上記の例外は除く。
こんな分類が何故必要なのかというと、まぁ、序列化であろう。上記の分類は、貴族の席次に関係してくる。
一般的に言って、位が同じであるならば、授爵された年が古い方が席次が上になる。しかし、位は同じでも種類の違う貴族を比較する場合、席次は年代ではなく、貴族の種類によって決定する。その序列は以下の通り。上のリストをそのまま使って説明しても良いけど、あえてもう一度書く。
- イングランド貴族
- スコットランド貴族
- グレート・ブリテン貴族
- 1801年の併合法以前に授爵されたアイルランド貴族
- 連合王国貴族
- 1801年の併合法以降に授爵されたアイルランド貴族
たとえば、The Duke of Norfolk(cr. 1483; England)とThe Duke of Marlborough (cr. 1702; England)を比べた場合、同じ公爵同士で且つ同じイングランド貴族の爵位なので、授爵が早いNorfolkの方が席次が上になる。
では、さらにその中にThe Duke of Hamilton(cr.1643; Scotland)を含めて考えてみよう。そうすると、HamiltonはMarlboroughよりも授爵年が早いにも関わらず、前者がスコットランド貴族で後者がイングランド貴族であるために、序列が下になる。つまり、この場合だと、Norfolk → Marlborough → Hamiltonとなる。
こういった序列の他にも、先にも述べたように爵位などはその法体系に左右されるために、その相続法などの問題でいろいろややこしい違いがでるケースもある。
さて、こうした五種の貴族の中に、それぞれ先に記した五等爵が存在するのである。そうなのではあるが、スコットランド貴族は例外がある。というのも、スコットランド貴族では第五位、つまりは日本語で言う「男爵」の地位が 'Baron’ではなく、15世紀以降、 'Lord of Parliament’なのである。
略して’Lord’。女性形は’Lady’- 位を表す語は Lordship。貴族に対する呼称をご存じの方はピンと来た方もおられるでしょう。
で、爵位には基本的にその姓が用いられる。しかし、’Lord Campbell’というような爵位はその
ところで、スコットランド法で言うBaronとは封建領主であり、スッコトランド法に於いてnobleではあるがpeerではない。この辺のこともまた後日。
したがって、スコットランド貴族における五等爵は:
- Duke
- Marquess
- Earl
- Viscount
- Lord of Parliament
ということになる。
中途半端な気もするが、とりあえず基本編はここまで。
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実は私も同じです。それが長じて、いろんな英語文献をあさるようになってしまいました。同じ事やっておられた方がいて、なんか安心しました(笑)
おはようございます。質問連発で申し訳ないのですが(^^;
伯爵以上(というか伯爵と侯爵)の場合、"Earl"や"Marquess"と家名との間に"of"があれば地名由来、なければ姓(Surname)由来とのことですが、子爵や男爵の場合、そもそも"Viscount"や"Baron"と家名との間に"of"がある例自体をほとんど見たことがありません。
#Viscount of Arbuthnottくらい。
これは子爵以下では家名の由来による使い分けをしていないということなのでしょうか?
儀礼称号がないことや、子の称号がHon.しかないことも考えると、伯爵以上と子爵以下の間にずいぶん深い溝があるような印象を覚えますね~。
[子爵以下では家名の由来による使い分けけをしていないということなのでしょうか?]
正式な、というか、法的な意味合いはちょっとわかりませんが、そういうように理解しても良いのではないでしょうか。
個人的には、その由来に違いがあると思います。この辺はじっくり考察してみないといけませんが…。
また、「深い溝」については、これは上級貴族とそうでない方の差でしょう。律令制に於ける公卿や通貴のようなものだと思っています。
これについても、peerの概念が出来た時の状況に関係していると思っていますが、いずれじっくり考えてみます。
また、ややこしい話ですが、儀礼称号(courtesy title)には、Lady, Lord, Hon.,といったものも含まれます。
え~、この週末に簡単な記事をなるだけあげておけるように努力します。では。
#trackbackのexcerptや概要の欄には、コメント的なものよりそちらの記事の抜粋のようなものを書いていただくと、より良いように思います。