王族の爵位についてちょっと考える Part III

Ineffabilis!

今回はまず英国の継嗣が帯びうる称号について考えてみましょう。現在のチャールズが帯びている称号は、’HRH The Prince of Wales, Dukes of Cornwall and Rothesay, Earls of Chester and Carrick, Baron of Renfrew, Lord of the Isles and Prince and Great Steward of Scotland’である。これは次のように分解できる。

The Prince of Wales and Earl of Chester
現イングランド君主の子、もしくは子の子で且つ法定推定相続人«heir apparent»である男子
The Duke of Cornwall
現イングランド君主の最年長の子である男子
The Duke of Rothesay, Earl of Carrick, Baron of Renfew, Lord of the Isles, Prince and Great Steward of Scotland
現スコットランド君主の最年長の子である男子

ここでの男子という語は、男性、という意味で使っています。息子、という意味ではありません。

もちろん、イングランドとスコットランドの王位は、グレート・ブリテン王位に統合されて、現在は連合王国王位になっていますから、それぞれ読み替えてください。本来そうだ、ということです。

さて、同じイングランド王位に関して、Prince of WalesとDuke of Cornwallの条件が異なることに注意しなければならない。Prince of Walesの称号授与の規定が意味するところは、現君主の長子でも、現君主の長子の長子でも、継承第一位となった時点で授爵されるということです。授爵という訳語は変かもしれませんが、ここではそう記しておきます。

しかし、The Duke of Cornwallの場合(The Duke of Rothesayの場合も)、現君主の子でなければなりません。たとえ継承第一位であっても、孫などであれば、The Duke of Cornwall (and Rothesay)とはなりません。

たとえば、現在、継承第一位であるチャールズは上記の通り、The Prince of Walesであり、The Duke of Cornwallであり、The Duke of Rothesayであるわけです。しかし、仮にチャールズが即位前に薨去し、長男のウィリアムが王位継承第一位となった場合、 彼は君主(エリザベス二世)の孫であるために、The Prince of Walesを授爵されても、The Duke of CornwallとThe Duke of Rothesay(並びにそれらに付随する爵位)を継承・授爵することはありません。

これらから、君主の弟は’The Prince of Wales’や’The Duke of Cornwall’とはならないことがわかります。また、妹や娘はたとえ、’heir paarent’に万が一なったとしても、’The Princess of Wales’とはなりません。この称号はThe Prince of Walesの妃のためのものです。一般的に女子は’heir apparent’とにはならず’heir presumptive'ですが、例外的に君主の娘が’heir apparent’となる特殊な状況があります。

上で、’The Duke of Cornwall’と’The Duke of Rothesay’に「なる」と表現を使いましたが、この二つの爵位は、一般の爵位とは幾分性質が異なります。現在すべての爵位はLetters Patentで授爵されます。つまり、この法定文書が君主によって発行されて初めて爵位が意味をなします。これは王族でも同じです。しかし、この二つの爵位に関しては、その人物が、英国君主の子と為り且つ英国王位の継承者となった瞬間にその爵位を有する、とされています。

わかりにくいかもしれませんが、考えられる状況は二パターンあります。

  1. 君主の子として生まれた場合
  2. 親が君主となった場合

一番目の例の場合、生まれてきた長子は、生まれた瞬間に’The Duke of Cornwall and Rothesay’となります。むしろ、そのように生まれてくる、といった方が良いかもしれません。したがって、仮に生後間もなくなくなっても、それが一時間であれ、その子は上記の爵位を有したということとなります。つまり、家系図などでは、Name, Duke of Cornwallの様に記されるでしょう。

二番目の例の場合、親が即位した瞬間に、’The Duke of Cornwall (and Rothesay)’となります。この場合もLetters Patentによらずに爵位を有すことになります。

Duke of Cornwallの方がDuke of Rothesayよりも、序列が上なので、普通Cornwallの方で知られることになります。スコットランドではRothesayの方の様に思いますが。

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Baron of Renfrew

サイトや文献によっては’Baron Renfrew’としてあるものもありますが、The Prince of Wales website、Burke’s PeerageDebrett’sにあるように’Baron of Renfrew’と記しています。またこの表記の方が下記の理由で正確です。royal.gov.ukのほうは’of’を抜いていますが誤りです。

Baronに’of’が付いていることから、男爵の領地名に’of’が付く希有な例かと思われるかもしれません。しかしながら一般的に言うとそうではありません。’Baron of Renfrew’が’Duke of Rothesay’と共にくっついていることからわかる様に、’Barony of Renfrew’はScottish Baronyつまりスコットランド法に於ける封建領地です。したがって、以前見たようにスコットランド法に於いてはpeerの称号ではないことになります。封建領主の称号は、territorial dignity、つまり領地に関わる位であり、その領地の所有権の移行に伴って移行します。爵位は個人に関わる位であるため、Letters Patent記載事項にしたがって移行します(LPによる授爵ならば)。

しかし、Baronage'Feudal Titles’という記事によると、このBaron of Renfrewは分類するのがややこしい称号の一つだという。

確かに、Barony of Renfrewはたしかに封建領地の称号として始まり、その時点ではpeerではない。1469年の議会法で、Barony of Renfrewはスコットランド国王の長子に与えられるようになった。この法の文言は曖昧なものの様で、学者の解釈は三つに大別できるという。

  • 1469年の法令で、’Barony of Renfrew’はpeerの地位を与えられた。
  • 1603の合同(スコットランド国王ジェイムズ六世がイングランド国王ジェイムズ一世として即位したことによる同君連合並びに事実上の合同)によって、’Barony of Renfrew’はpeerの称号となった。
  • 1469年の法令の意味が曖昧であることから、’Barony of Renfrew’は未だに封建領地的称号である。

先の記事は、これを例にとって、封建的称号«feudal titles»の研究には多大な注意が払われるべきである、と結んでいる。我々日本人にとっては、ネイティブと同じ英語の解釈がどうあっても出来ないから、このような細かい注意が、すべての称号研究に対して払われるべきだろう。自戒を込めて。

ここでは、封建領地とかいうあまり美しくない日本語を使っていますが、概念的にわかりやすくするために、ベタなものを使っています。ご了承ください。

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The Prince of Wales

'The Prince of Wales’という称号は少し特殊です。まず、これは爵位«peerage»とは見なされません。しかし、この称号は常に、’The Earl of Chester’と一体となっており、仮に君主の孫がPrince of Walesになったとしても、Earl of Chesterの爵位によって、貴族«peer»であり得ます。もっとも、Prince of WalesはEarl of Chesterよりも位が上なのはいうまでもありません。

さて、先述したように、Duke of Cornwallと、Duke of Rothesayに関しては、それを帯びるべき身分になった瞬間にそうなるわけです。しかしながら、’The Prince of Wales and Earl of Chester’はLetters Patentによって’create’されなければなりません。この場合の訳としては授爵でも良いかもしれませんが、宣下でも良いかもしれません。このcreationの時期は、その身分となったならば、すぐでもかまいません。間が空く場合もありますが、特に決まった規定はないようです。色々勘案されるのでしょう。このように、Prince of Wales自体は、未成年でもなれるのですが、その後一定の年齢に達した時、特に現代は実際に権限を与える叙任式«investiture»が執り行われます。任官式、授与式という訳でも良いと思います。

現ウェイルズ公のチャールズ王子は、1952年2月6日(満3歳)にDuke of Cornwallとなり、1958年7月26日(満9歳)にPricne of Walesに封じられ、1969年7月1日(満20歳)にカナーヴォン城で叙任されました。その前の、エドワード王子(後のエドワード八世)は、1910年5月6日(満15歳)にDuke of Cornwall、同年1910年6月2日(満15歳)にPrince of Wales、そして1911年7月13日(満17歳)でカヴァーヴォン城において叙任されました。

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Royal Dukesというものについて

さて、ここまで王族の爵位について扱ってきました。こういった王族の公爵に関して、特にRoyal Duke(s)と呼ばれることがあります。Earl of Sussexは例外的なのでそのRoyal Earlを含めればRoyal Peer(s)等といわねばなりませんが。

こうした王族公爵の席次は、一般貴族の公爵、たとえば王国筆頭公爵«Premier Duke of the Realm»のThe Duke of Norlk等よりも上位になります。先に、五種の貴族について扱いました。そこで、「’Royal Duke’はこの五種の最上位にあるイングランド貴族よりも上位のカテゴリーなのだ」と思ってはいけません

違った角度から考えてみましょう。実は’Royal Duke’は法律用語«legal term»ではありません。彼らは、正確にはDukes of the Blood Royalと呼ばれます。つまりは、王族であるところの公爵、といったような意味です。「王族公爵」と意味は同じようなものですが、こちらの方がわかりやすいかと思います。つまり、彼らがイングランド貴族の面々よりも席次が上なのは、’Royal Duke’といった類のカテゴリーによるものではなく、彼らが王族であるからなのです。彼らが王族であるから、王族ではない貴族よりも、席次が上になるのです。したがって、王族に封ぜられた爵位も、代が下って王族でないものが爵位を継ぐと、その席次はその授爵された年代によって、一般の規則に従う席次に落ち着きます。

したがって、HRH The Earl of Wessexは伯爵ではあっても、王族故にThe Duke of Norfolkよりも席次は上、ということになります。

旧ブログ時代Writeback(s)

Comment(s)

1: Lucius (2004/10/04 04:24) l.aquarius(あっとまーく)excite.co.jp
The Duke of Cornwall and Rothesayは、王の継嗣の儀礼称号みたいな動きをするんですね。ちょうど、The Earl of Drincourtの継嗣だとしても、子でなければLord Fauntleroyにはならないというのと同じで。

#もちろん、こっちは儀礼称号ではないでしょうけど。

ところで、王族の範囲はHRHとPrince,Princessの称号が(出生によって)許される範囲と一致するのでしょうか?

2: dzlfox (2004/10/04 14:12)
[王の継嗣の儀礼称号みたいな動き]
うーん、良い表現ですねぇ。人によっては誤解するかもしれませんが。
Dukeに関しては確か元々一代限りのものだったというのを読んだことがあるので、それに伴う前例によって、慣習が凝り固まった、と言えそうです。

[王族の範囲はHRHとPrince,Princessの称号が(出生によって)許される範囲と一致するのでしょうか?]
一致しません。

まず、余談から。
'royal family’という用語が法律用語として明確に定義されているわけではありません。
a.t.r.FAQによると、女王が身内に対して、自身の子以外でそれに値する人物のリストを発行しているようですが、非公開な上に法的効力もない私文書扱いだそうです。
で、この’royal family’には、現君主の子、孫、ひ孫を含むのが一般的な見解のようです。
で、KentやGloucesterの様に、現君主の直系ではない’Prince/ss’は、’royal household’とされるようです。

私としては、日本語としての王族という語を用いた場合、日本の例を鑑み、’royal household’までに入る近親者で且つ’prince/ss’の身分であることを指しています。
(日本の場合、降嫁による臣籍降下というものがありますが、当然英国にはありません)

それで、何故一致しないかというと、妃も婚姻継続中も王族に含まれることになるからです。

というように理解しております。

3: Lucius (2004/10/05 03:08) l.aquarius(あっとまーく)excite.co.jp
言葉足らずだったかもしれません(^^;

“Dukes of the Blood Royal"でいうところの(公爵である)「王族」は、HRHとPrinceが出生によって許される人までということでしょうか?という趣旨の質問でした。

#つまり、Earl of St. AndrewsやEarl of Ulsterの代になったら一般の序列に従った公爵になるのかな?と。

以前、王族は(爵位による)儀礼称号を帯びないとのお話がありましたけれど、これもHRHとPrince(ss)を帯びる人はそれを爵位による儀礼称号に優先し、帯びない人は通常通りの儀礼称号で呼ぶことになるという理解で問題ないでしょうか。

そういえば、HRHとPrince(ss)は君主の子、君主の男系の孫、the Prince of Walesの最年長の男子の(生存している)最年長の男子までということでしたが、たとえば今の君主が在位したままHRH Prince William of Walesが婚姻して子が生まれた場合、その次男の称号はどうなるのでしょう?<重箱の隅ですが(笑)

4: dzlfox (2004/10/05 08:55)
ああ、なるほどbr />[Earl of St. AndrewsやEarl of Ulsterの代になったら]
これは、今これらの儀礼称号を関している人らのことですよね。でしたらその通りです。

[HRHと儀礼称号]
そのように理解しております。
もう少し詰めた方が良いかもしれませんが。

[今の君主が在位したままHRH Prince William of Walesが婚姻して子が生まれた場合、その次男の称号はどうなるのでしょう?]
Pr Williamが結婚するとなると、彼は公爵に授爵されるはずです。ということは、現在の法制的には公爵の次男扱いとなります。ただし、女王がLPなりなんなりで、"HRH+Prince"の適用範囲を例外的/恒久的に拡大することはあり得ます。
(ただ、最近の風潮だとあまり好まれないような気もしますが)
何故長子だけ特別かというと直系の継承ラインだからですが、まぁ、君主が生きていてもそれぐらいだろう、というのもありますので…(笑)

5: Lucius (2004/10/06 03:23) l.aquarius(あっとまーく)excite.co.jp
The Prince of Walesの子も婚姻すれば公爵になるんですね。HRH Prince Michael of Kentのイメージがあったんですが、直系は特別ということかしら(笑)

すると次男Xの称号は、HRH The Duke of Yの次男として"Lord X Windsor"、祖父のCharlesが即位すれば"HRH Prince X of Y(ん?of Cornwallかな?)"、父のWilliamにThe Prince of Walesの宣下があれば"HRH Prince X of Wales"と変化する……のかな?<いまいち自信なし(^^;

#そういえば、王族のSurnameはMountbatten-Windsorになっているんでしたっけ?

6: dzlfox (2004/10/06 10:55)
[PoWの子への授爵]
例を挙げてみますと、Victoria Rの長子、Albert Edward, Prince of Walesの長子、Pr Albert Victor of Walesは祖母在位中の1890年に’Duke of Clarence and Avondale’に封じられています。(弟のPr George of Walesが’Duke of York’を授爵されたのは兄の死後になります。)

YよりもCornwallの方が序列は上でしょうからHRH Pr n of Cornwallの様な気がします。そのほかはあっているように思います。

王族のSurnameに関しては、本来欧州の慣習では王族はSurnameを有しないと言うことになっているのですが、色々ややこしい話もありますし、最近のLady Louise Moountbatten-Windsorの例もあるのでLord n Mountbatten-Windsorとなる可能性が高いですが、公式に決まっているわけではないので、そうなってみないとわかりません。
#Charles即位後の王朝名もそのときにならないとわかりません。

この記事の内容は公開当時の研究結果及び見解を伝えるものです。その後の法令情勢の変化や、見解の変更、学術的なコンセンサスのアップデートなどもありえますので、貴殿がアクセスされた時点での正確性などを保証するものではありません。

25/03/2021称号, 英国, 過去ログ

Posted by dzlfox