ダイアナ元妃の称号についてのQ&A

Ineffabilis!

元サイトでも何回か論じてきたトピックですが、いくつかの記事に分散して書かれていることもあってわかり難いこともあるでしょうから、この辺で少し’Q & A’形式にしてまとめてみます。なるだけわかりやすく書くように心がけているつもりです……。

ダイアナ元妃のことを「プリンセス・ダイアナ«Princess Diana»」と言ったら、「その表現はおかしい」と言われました。何故ですか?
簡単に言ってしまえば、ダイアナ元妃は’Princess Diana’と呼ばれる身分ではなかったから、と言うことになります。

英国にはおおざっぱに言って二種類の’Princess’があります。それは:

  1. 生まれついての’Princess’すなわち「王女」 (これを’Princess by birth’と言います。)
  2. 王族男子と結婚したことによって’Prinncess’になった人、すなわち「妃」(これを’Princess by marriage’と言います。)

最初のものは日本の皇室で言えば先程婚約を発表された紀宮清子内親王殿下にあたります、二番目のものは皇太子妃殿下(雅子様)や秋篠宮妃殿下(紀子様)にあたります。

さて、この二種類の’Princess’では'Princess’の付き方が変わってくるのです。先の「王女」の’Princess’の場合、その人の«forename»(要するにファースト・ネームと考えてもらって構いません)につきます。つまり、ヨーク公«HRH The Duke of York»アンドリュー王子«Prince Andrew»)の長女であるビアトリス王女は’Princess Beatrice’となります。

二番目の「妃」の場合、’Princess’はその人の«forename»ではなく夫の名につきます。この場合、決して’Prtincess + [妃の名]’にはなりません。

さて、ダイアナ元妃はチャールズ王子と結婚して’Princess’となった二番目のパターンですから、この時点で’Princess Diana’ではない、と言うことがわかります。

では、ダイアナ元妃は’Princess Charles’なのでしょうか。もちろん、結婚している間はそうでした。しかし、夫君がウェイルズ公«The Prince of Wales»であることで少し事情が異なります。「単なる王族」と「称号や爵位をもった王族」とでは後者の方が位が上ですから、後者の人らはそもそも名前ではなくて、そのもっている称号や爵位で呼ばれます。

したがって、よく我々は「チャールズ王子(皇太子)«Prince Charles»」という様に言いますが、これはややフォーマルさに欠ける言い方になります。正しくは(「殿下」という語にあたるHis Royal Highnessを用いて)’HRH The Prince of Wales’と呼ばれることになります。

その妃であるダイアナは、夫の称号を女性形にした’HRH The Princess of Wales’と呼ばれることになるのです。この場合、HRHは女性形の’Her Royal Highness’の略です。

以上のことは結婚している間の話です。離婚後、彼女は’Diana, Princess of Wales’と称されることになりましたが、このことは後の項目で書くことにします。一つ重要なことは、このように、どう転んでもダイアナは’Princess Diana’とはなり得ない、ということです。

しかし、中には「私の友人の英国人はプリンセス・ダイアナと言っていた!」と言われる方もいるかもしれません。はい。おそらくそうでしょう。実際、タブロイドなどもそう書いているでしょう。英国のラジオでもそう言っていることを聴いたことがあります。残念ながら、英国でも一般人はこういったことに興味が普段から無いために、こういう慣習を知らないのです。しかしながら、いかに多くの人間が誤用しているといっても、これは決まっているルールですから、「プリンセス・ダイアナ」が誤用であることにはかわりありません。

なぜ妃の場合は夫の名につくのか、と言う疑問をお持ちの方、ならびにもっと詳しい話を読みたい方は「正式な英語における’Mrs’」および「改めて’Princess Diana’を考えてみる」を参考になさると良いかもしれません。

ダイアナ元妃は離婚後にも’Princess of Wales’の称号を持つように王室と妥協した、と聞きますが。
最初にダイアナ元妃の離婚後の名称について考えてみましょう。

ダイアナ元妃が結婚している間は’HRH The Princess of Wales’と言う称号であったのは前項の通りです。王族の妃の離婚後の名称については、一般的な貴族の称号におけるルールに従います。

そのルールとは:

  • [女性の名], [結婚時の称号から敬称を抜いたもの]

ダイアナの場合、結婚していたときは’HRH The Princess of Wales’ですから敬称にあたる’HRH’および’The’を抜いて、’Princess of Wales’を’Diana’の後につけます。すなわち: 'Diana, Princess of Wales’となります。

さて、これからはかなり微妙なのですが、厳密に言えば、この場合における’Princess of Wales’は称号ではありません

では何なのでしょうか。一般の離婚した女性のことを考えてみるとわかりやすいもしれません。一般的に言って、離婚した女性は旧姓に戻すことも出来ますが、夫の姓を名乗り続けることも出来ます。離婚後のダイアナ元妃における’Princess of Wales’はこの「離婚後も名乗り続ける夫の姓」と同じなのです。

ダイアナ元妃は実際には離婚しているので、「Prince of Walesの妻」という立場ではなくなっています。ですからその妻を表す’Princess of Wales’の称号をもっている、ということではないと言うことです。

実際ダイアナ自身は独身時代の名である’Lady Diana Spencer’に戻す手続きをとっても良かったのですが、しませんでした。称号ではないとはいえ’Princess of Wales’を名前に使えるメリットの方を選択したといえます。

というわけですから、そもそも「妥協」とかそういう問題ではありません。

ダイアナ元妃は離婚の時、女王によってHRHの敬称を剥奪されたと聞きましたが。
これは誤解、もしくは意図的な誤報です。

HRH、要するに’Her/His Royal Highness’というものは’Prince’もしくは’Princess’が帯びる敬称で、日本語の「殿下」に相当するものです。要するに王族が帯びるべき敬称なので、王族でなくなった時点で帯びることが無くなります。

したがって、離婚によって王族ではなくなったダイアナ元妃は「HRHを剥奪された」のではなく「HRHを帯びる身分ではなくなった」ので帯びなくなったということなのです。

では何故こんな誤解が広まってしまったのでしょうか。

実は離婚に先立ち、女王は離婚した妃の称号・敬称の取り扱いについて公的な文書を発行しました。そのなかで「離婚した妃はHRHを帯びない」といったことが書かれていました。これを見てタブロイドをはじめとしたメディアが「女王、ダイアナからHRHを剥奪!」という感じで書きたてたのです。

そもそもこの文書は慣習の確認のために出されたものです。といいますのも、ウェイルズ公夫妻の離婚が現実的になって以来、バッキンガム宮殿は「離婚したらダイアナの称号はどうなるのか」という質問処理に苦慮していました。そこで、女王は旧来の慣習で決まっているルールを文書でもって確認し、明らかにしようとなさったのです。

それを上記のように報道したのメディアは本気で間違ったのか、意図的に間違ったのか、それは知りませんが、ともかくそういう報道があったのは事実です。しかし、ここで説明した通り、決して「剥奪」ではなく、そういう身分ではなくなったからHRHを帯びなくなった、というのは正しいのです。

この件に関しては「HRHと妃たち- 'Princess Diana’論議の補足」に詳しく書いています。

旧ブログ時代Writeback(s)

Comment(s)

1: 公爵 (2005/03/10 20:47)
これはなかなか分かりやすい説明ですね。
>一般的に言って、離婚した女性は旧姓に戻すことも出来ますが、
>夫の姓を名乗り続けることも出来ます。
そういえば、マークス寿子もそうでしたね。
2: dzlfox (2005/03/11 23:22)
> これはなかなか分かりやすい説明ですね。

どうもです。
かなりすっ飛ばしてしまっているので、かえって心配したんですが…。
うちに来られる方の検索語句で結構ダイアナとその称号関連のキーワードが多かったものですから。

3: 公爵 (2005/03/17 03:04)
ところですみません、ちょっと教えて下さい。
HMやHRHは、称号を持つ本人が自署する際にも付けるものなのですか?
他者が記述する際に敬意を込めて付けるものなのですか?
自分で自分に「殿下」とか「陛下」を付けるのはなんかおかしいので、
後者だと思うのですが・・・。ご教授宜しくお願い致します。
4: dzlfox (2005/03/18 22:36)
結論から言うとつけないと思います。
せっかくですので明日ぐらいにエントリにします。
5: 公爵 (2005/03/18 23:40)
普通そうですよね。ありがとうございます。記事、楽しみにしております。
6: njt (2009/02/02 03:06)
はじめまして
多数の記事、興味深く読ませていただきました。

さて、
> 以上のことは結婚していろ 1000 ?間の話です。
に化けています。blog再編の関係でしょうか。

7: dzlfox (2009/02/02 12:15)
njtさま。
御来訪ありがとうございます。

数年前にブログシステムをBroxsomからrNoteに変更した際、手違いからいくつか「ゴミ」が残ってしまっています。
ご指摘の文字化けの件はこの「ゴミ」の部分です。
本来は早急に修正すべきことなのではありますが、種種の事情から放ったままになっています。
今回のシステム再編の際に過去ログは校正整理していくつもりですので、その際に修正できるのではないかと考えております。
ご理解願います。

8: njt (2009/02/03 00:33)
簡単に直せるものではないのですね、余計なことを申しました。
9: dzlfox (2009/02/03 09:22)
njtさま。
恐縮です。
お叱りを受けるのはもっともなことで、この「ゴミ」が出た件については、かなり昔の上記システム移行時にいったんエントリーを載せただけですので、最近御来訪していただいた方には申し訳なく思っております。
(資料アーカイヴ的な価値も半減ですし)
私にはもともと誤字脱字が多く、それぞれ逐次構成していかねばならないのですが、元来がものぐさなため、機会をとらえるまではなかなか腰が上がりません。
徐々に改訂していければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

この記事の内容は公開当時の研究結果及び見解を伝えるものです。その後の法令情勢の変化や、見解の変更、学術的なコンセンサスのアップデートなどもありえますので、貴殿がアクセスされた時点での正確性などを保証するものではありません。

22/09/2023称号, 英国, 過去ログ

Posted by dzlfox