女性は爵位を継げるか Part III – スコットランド –
スコットランド貴族の事情
スコットランド貴族は結構特殊です。そもそもイングランドと異なり、国王の権力が諸侯よりもかなり弱かったために、諸侯に有利になっていることが多いようです。
スコットランド貴族はWritによる授爵という例が(ほとんど)ありません。Charter(勅令)もしくはPatentによる授爵が大半なようです。そのうち、五等爵の内でも歴史が古い’Earl’と’Lord of Parliament’の多くが女性が継承可能になっています。
Charterによる貴族でも、Patentによる貴族でも、1707年の合同法以前は規定の相続法を変更することが可能でした。そういったremainderにはheirs by nomination(指名による相続人)というものが、稀ではあったようですが存在します。また、novodamusという制度もありました。これは、Charterで封ぜられた貴族が断絶しそうなときなどに、君主に対して異なった相続規定でCharterを発してもらうことができ、その手続きおよび発行文書等を総称して’novodamus’というようです。
1707年以降は、remainderで特に継承規定が決まっていなければ’heir general’が標準とされ、それ以前のように簡単に継承規定が変わる、ということが無くなりました。特に同君連合以降の17世紀の爵位には’heirs male’という規定になっていることが多いようです。
先のPart IIを読まれた方は、’heirs general’という継承法が女子に相続を許すものだと言うことをおわかりいただけたかと思います。また、co-heiressesという概念があるために、「男子がおらず、子供は娘が複数」という状況になった場合、爵位が停止状態になる、という面倒くさい事態になることも書きました。しかし、これはイングランド法によるもので、スコットランド法では事情が異なります。
実は、スコットランド法で’heirs general’という用語が示すのは、イングランド法で言うところの’heirs of line’なのです。したがって、上記の様な状況になっても、複数の女子が長幼の序によって継承順位がつけられ、有爵者の死後、最年長の女子が直ちに相続します。
つまり、この意味における'abeyance’はスコットランド貴族には存在しない、ということになります。
何故この様になるのかというと、一つには先程述べた王権の弱さと諸侯の強さがあるようです。そもそも、スコットランド王家が全スコットランド的な王国を成立させるまで、古くからあるEarlの家はそもそも広域な地方領主として’King’の号を称していた「元同格」な人らが多かったですし、’Lord of Parliament’はそもそも封建領主である’Baron’のうち強大な人らが与えられた爵位です。
こういった経緯から、イングランドが爵位というものを早々に個人の位階としたのに比べ、スコットランドでは合同まで封建的な制度が残り、爵位というものはその封土に付属するものでした。このシステムでは、封土の相続と爵位の相続が一体となっていなければなりません。それ故に、さっさと相続させる仕組みになったのではないか、という説があります。
スコットランド貴族には’abeyance’が無いということから、イングランド貴族よりも、女性が継ぐ可能性が高いと言うことができるかもしれません。
スコットランド貴族はややこしく、まだまだわからないことが多いです。したがって、勘違いしている部分があるかもしれません。識者の方のご教授を乞うばかりです。
このトピックは一応終了。
最近のコメント